小出裕章

原子力発電とはウラン(一部はプルトニウム)の核分裂で発生するエネルギーを発電に利用するシステムである。そのため、エネルギーを得る一方で、核分裂生成物の生成が避けられない。広島に落とされた原爆の爆発力は 16 キロトン(1 万 6000 トン)であり、その時に核分裂したウランは 800g であった。今日では一般的になった 100 万 kW の原発の場合、1 年間に 1 トンのウランを燃やす。そのため、広島原爆が撒き散らしたものの 1000 倍以上の核分裂生成物(死の灰)を毎年生む。 原発は「トイレのないマンション」と呼ばれる。なぜなら、つかの間の華美な生活を求める一方で、それが不可避的に生む廃物の始末の手段を持たないからである。日本には現在 52 基、世界には 400 基を超える原発が稼動しているが、それらが生み出す膨大な核分裂生成物をどう始末したらいいのか、原子力開発が始まって半世紀たった今なお分からない。生み出す廃物の後始末も知らないまま、とにかく利便だけを求めて走ってきてしまった愚かさに暗澹とする。 ただ、廃物の始末をどうするかという問題に加えて、原子力発電にはもう一つ深刻な問題がある。運転中の原発での事故である。原発が機械であり、人間が誤りを犯す存在である以上、原発とて事故と無縁ではいられない。そして、原発の内部に蓄積している放射能が想像を絶するほど厖大であることが、この問題の核心である。